2003年7月23日水曜日

伊坂幸太郎『重力ピエロ』

 さてさて、今週は『勝手に読書週間』ということで、ここ最近読んだ本で印象に残った本を至極勝手に紹介させていただこうと思います。まず今日ご紹介いたしますのは伊坂幸太郎の『重力ピエロ』。以前この日記でも軽く引用をいたしました。この本は、とにかくタイトルにやられました。『重力ピエロ』。いきなり言われてもなんだかよくわかりません。挙げ句、書き出しの章のタイトルまで『ジョーダンバット』です。いよいよもってよくわかりません。一体どういう本なのでしょうか。

 「春が二階から落ちてきた」で始まり「春が二階から落ちてきた」で終わるこの小説は、分類するならミステリーに入ることでしょう。ですが、正直ミステリーとしては二流です。犯人や人間関係の裏付けはすぐに予想できてしまうし、犯人追跡の場面描写も凝ったものとは言えません。ですが、ミステリーとしてよりも純粋に小説として、この本は非常に面白いです。『ジョーダンバット』の最後に書かれているように、これは遺伝子と連続放火事件についての話なのです。ガンジーやら芥川龍之介やら、とかく色々な先人達の言葉や作品を直接的に引用しながら、遺伝子、性、正義、憎悪といったもの達を独特の言い回しで切って見せるこの作品は、読み始めたら止まらない不思議な求心力を持っています。突飛な言い回しや引用が、話が進むにつれすっと一つにまとまっていく不思議さ、予定調和のようでいて少しピントのずれたような、そんな疎結合的な言葉と物語の破片達。実に独特な面白さがある本です。ミステリー形式の哲学書というのは言い過ぎかもしれませんが。是非、一度読んでみてください。

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