2003年9月12日金曜日

歪められた太陽

 一口に暑いと言っても、暑さの種類はいくらでもある。その意味で、今日の暑さはある種独特の、そして別の見方でいえば典型的なものだった。

 真夏の都会の暑さは人の汗とビルの照り返しの暑さだ。熱されたアスファルトが靴のゴム底を歪め、自動車のタイヤを歪め、人の顔を歪め、そして空気を歪める。歪められたものたちはそれぞれ少しずつ、微かだが何かしらの匂いを放ちながら道を行き過ぎる。街路に植えられた樹の丈より、はるかに太陽に近い所から熱をため込んだビル群が、さらにジリジリと大気を煮詰め、濃いドロドロした、淀んだ粘液のようになった空気が肌にまとわりつく。停滞した人の流れに、詰め込まれたように集まる人の体は近く、その体温がさらに濃度を上げる。体から発散された汗も、流れはあるのに風の吹かない空気の中、ビル群の上にかぶせられた透明な蓋から外に出ることができずに行き場をなくす。浮遊霊のように漂う人の数だけの汗の蒸気が、また熱をため込み湿度を上げて、同じような幽霊を増やそうとする。地面に、ビルに、人と人の汗に、都会の空気は煮込まれ、味付けされ、そして腐敗させられる。作りかけられたまま放置され、ドロドロのまま腐っていく未完成のジャムのような、コレステロールが詰まった血管の中を、苦しそうに身を捩らせながら通る血液のような、淀み、遅滞した、陰鬱な熱気。ひどく人工的な、不自然な熱気。太陽は、何処に行ったのだろう。今、無気味な程青く深く透き通っているその空に浮かぶ光体は、本当のところ太陽ではないのではないか。その熱は、もうこんなにも歪められてしまっているのだから。

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