2003年10月20日月曜日

哲学的な感性の音楽 - ステファノ・グロンドーナ

 久しぶりに立て続けにギターのことについて書き連ねますが、渋谷のタワーレコードで、偶然ステファノ・グロンドーナのCDを2枚見かけました。しかも1枚は普通にギターのコーナーにあったのですが、もう1枚は古楽のコーナーのリュートのところに何故かあったという・・・。しかもそのCDに収録されているバッハとスカルラッティとフローベルガー、どの曲もリュートと関係ないただのバロック曲集だしな、また。何故リュートのコーナーに・・・?

 とはいえステファノ・グロンドーナです。かのオスカー・ギリアの高弟であり、85年にとあるインタビューでセゴビアが「最もお気に入りの弟子の一人だ」と名指ししたという(ちなみに同列に並べられたのはジョン・ウィリアムス、オスカー・ギリア、そしてアリリオ・ディアス)知る人ぞ知る名ギタリストです。まぁ世界的な評価の割に日本ではやけにマニアックというかあまりに知られていないだけなのですが。私も彼のことは知らなくて、昨年の5月にマンゴレの熱い誘いを受けて行った『音楽の絆フェスティバル』でグロンドーナ氏のマスタークラスを聴講し、その堅実で流麗な技術と、豊かな音楽性を裏付ける哲学的な思索と確かな感性に魅力を感じ、また他に類を見ない「哲学者」的なギタリストという印象から、その後も非常に興味を持っていたのです。しかし彼のCDってなかなか売ってないんですよ。なんとAmazonでも見つけられなかった・・・。それがタワーレコードでほとんど偶然に見つかったので、給料日前の苦しい懐具合にも関わらず思わず衝動買いしてしまいました(苦笑)。いいんです、CDには2種類あるんです。買おうと思えば後で買えるCDと、見かけた時に買っておかないともう二度と出会えないCDと。

 今回入手したのは前述のバッハ、スカルラッティ、フローベルガーの曲を集めた『BAROQUE IMAGES』、そして歴史的価値の非常に高い12本のヴィンテージギターを弾き分け、タルレガ、リョベート、セゴビアの作曲・編曲物を中心に編纂した2枚組『鳥の歌』です。ステファノ・グロンドーナはギター史やギター製作の研究家としての顔も持っており、『鳥の歌』では演奏家としての彼と研究家としての彼が両方楽しめます。曲に合わせてA.トーレス(しかも様々な年代の)やブーシェ、ハウザー他計12本の歴史的名器を弾き分けていくこのCDは、曲や演奏も素晴らしい上に様々な名器の音色も堪能できるという素敵な1枚です。しかし、このCDを聴く人は「やっぱり同じ人が弾いても楽器によってこんなに響きが違うんだな」というテーゼと「やっぱりどんな楽器を弾いても結局はその人の音になるんだな」というテーゼ、そのアンビバレンツに苦しむ羽目になりかねません(爆)。いや、本当不思議なんですよ、これが。ともあれ、ギター史やギター製作史に対する深い理解を持った上で一曲一曲に注がれる深い洞察、内省的な奥行きが聴く程に伝わってくるこのCDはかなりお薦めです。この音楽を楽しむためなら多少アンビバレンツに苦しむくらいはいいじゃありませんか(?)。ちなみに、もう1枚の『BAROQUE IMAGES』の方は今聴いているのですが、こちらも楽器はA.トーレスです。敢えてバロックをトーレスで弾く意味は?という疑問はさておいて(トーレスはいわゆる19世紀ギター、収録されている作曲家が生きたのは17世紀)、フローベルガーという作曲家をギター編で聴けるのはそれだけでなかなか珍しいことです。

 ・・・というわけで、先のジョン・ウィリアムスのコンサートもあり、ここ数日私の中ではギター熱に相当火がついてしまっているとのことです。

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