2004年7月17日土曜日

J.S.Bach - クラシックギターとポリフォニー

 これまでこの日記で色々と「この音楽は凄い」といったようなことを書いてきた。それはマイケル・ヘッジスやバーデンパウエルだったり、藤井敬吾先生やグレン・グールドだったり、デビッド・ラッセルだったりステファノ・グロンドーナだったり、最近ならキース・ジャレットやトマティートのコンサートだったりした。ただ、意外というか当然というか、いつも触れられるのはその「演奏」であって「楽曲」ではなかった。これだけ色々音楽について書いてきた気もするのに、ひたすら「演奏」という側面を強調した見方に偏っていたんだなという意味では意外だし、私自身が音楽に対して行う行為の中心は作曲ではなくあくまでも演奏だという意味では当然のことだ。

 ほとんど唯一、演奏や演奏者についてでなく楽曲そのものについて触れているのはJ.S.バッハの作品群。やはり私の中でバッハというのは格が違う。パッと聴いた際の美しさもさることながら、聴き込めば聴き込むほどに、今度はその旋律や響きの美しさから、呼び合う声部の面白さ、絡み合う構成の見事さに惹かれるようになっていき、そして最後には奥に潜んだ内面の深さにため息をつく。『ドッペル・コンツェルト』や『ゴールドベルグ変奏曲』、『シャコンヌ』、『マタイ受難曲』、『パルティータ第2番(BWV826)』、『音楽の捧げもの』、『フーガの技法』・・・。これら圧倒的な完成度は、正直これから先も超えられることはないんだろうなと感じてしまう。今の音楽の主流はバッハのようなポリフォニー音楽ではなく、一般にはホモフォニー、一部現代音楽では無調音楽等に変遷してしまっているという事情はあるとしても。

 ところで、バッハのような本格的なポリフォニー音楽というのは、基本的にはギター独奏には向かない。ギターはその特性上、ピアノのように複数の旋律を同時に進行させることを非常に苦手とする楽器だからだ。代わりに、主旋律に伴奏音を付けたり和音の連打をしたりするのにはめっぽう強い。これはホモフォニーの在り方そのものだ。それが「ギターは小さなオーケストラ」と呼ばれた所以だと思う。ベートーベンの時代、音楽がバッハのポリフォニーからベートーベンのシンフォニーが堂々と奏でるホモフォニーに遷っていく中、これまでのポリフォニーに強かったパイプオルガンやクラヴィコードという楽器はオーケストラに少しずつ出番を譲っていく。その中で、ホモフォニー音楽を完成させた張本人といってもいいベートーベンが、ギターという楽器の特性を見抜いて述べた言葉が「ギターは小さなオーケストラ」だった。この言葉はクラシックギター弾きの中で、ギターは素晴らしいんだと一般に売り込みたい時なんかによく使われるが、それは逆に言うと実は、「この楽器はポリフォニーには向かない」という側面も意味している。もちろん「基本的に」というだけで例外はある。たとえば、リュート組曲は元々の楽器が似ていて、それに合わせて作られているためかギターにもよく合うと思う。けれど、早くからギター編が出てるBWV1000のフーガとか、結構無理矢理弾いてるけど本来ギターに合う曲じゃないだろう(まぁこの曲も元々はバッハ自身によるリュート編ではあるが)。とはいえ、弦の鳴らし方が一般の鍵盤楽器に似ているギターは、音そのものがポリフォニーに向かないわけではない。あくまで独奏の際、機能的に難しいというだけのことだ。だからヨーゼフ・エトヴェシュが多重録音で出した『フーガの技法』は素晴らしいと思うし、バッハの協奏曲をギター合奏でやるのは無難に編曲できてしかも(演奏技術さえ追いつけば)聴こえがいいというのは周知の事実だ。昔からギター界で「バッハは難しい上に報われない」というのは、あくまで独奏に限った話だろう。ギターでも素晴らしいバッハは奏でられる。一緒にやれるパートナーや仲間さえいれば。独奏は、ギターに本当に合った曲を探さなければならない。バッハの神髄ともいえる『フーガの技法』や『音楽の捧げもの』がギター独奏で再現できないのは非常に残念ではあるけれど。

1 件のコメント:

  1. AYUさんはクラッシックギターがお好きなんですね。
    私ブログに投稿ってしたことないのですが。。ちょっと
    ��゙ターリサイタルの宣伝をさせてくださいネ
    オランダ王立音楽院ギター科教授Enno Voorhorst
    ギターリサイタル
    日時:2009 10/17(14:00)
    場所:日本基督教団小田原教会(小田原市栄町4-9-43)
    チケット:2000円
    プログラム:ヘンデルのシャコンヌHWV435
    テレマンのコンチェルトTWV51:g1(後にバッハ編曲BWV985)
    J.C.F.バッハ プレリュード
    バリオスの森に夢見る・演奏会用練習曲第一番・前奏曲イ短調・アルベニスのアストリアス他
    彼の演奏はYOUTUBEで聴くことができます。HTMLタグは使えないというので。。貼り付けませんが、youtubeでEnnoと入れるとヘンデルの洗練された演奏が聴けます。
    連絡先:足柄のneko 
    stareyes@cb3.so-net.ne.jp

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