2004年11月21日日曜日

ウィーンフィル体験

 昨日のことになりますが、ウィーンフィルの演奏を生で聴く機会に恵まれ、コンサートに行ってまいりました。サントリーホールにて今新たなカリスマとして注目を集めているワレリー・ゲルギエフ指揮のウィーンフィル!これだけの一流ホールで世界最高峰のオーケストラが聴けるとは思いませんでした。しかも曲目はラフマニノフのピアノ協奏曲第三番とチャイコフスキーの交響曲第四番。かなり私好みのチョイスです。

 このコンサートは元々は招待及び抽選のみで全席が埋まり、一般でのチケット販売はされていないプレミアコンサートです。本来なら私が行ける類いの代物ではないのですが、招待券をもらった社長が「行きたい人がいたら抽選するから手を挙げろ」との配慮をしてくれて、手を挙げたら当ってしまいました。チケットをもらってみた時は、ギラッと光るプラチナチケットに戦慄を覚えたものです。基本は招待だけのコンサートだけあって、周りは何となくセレブっぽい人々がたくさんいましたし、会場では解禁されたばかりのボジョレー・ヌーボーも無料で飲み放題という至れり尽くせりぶり。開演前からして既に夢気分です。オーケストラが出てきて客電が下りた時の緊張はいうまでもないでしょう。

 ラフマニノフのピアノ協奏曲第三番が始まります。低く、怪しく静かに奏でられる弦の響きに、冷たく侘びしげなピアノのフレーズが乗っていきます。そこから始まる世界はなかなか改めて言葉にしようと思うと出てこない、非常に密度の高い空間でした。いつか言葉にできる日が来ることを祈りつつ、今回は少々寡黙に、確実に言葉にできることのみを書き留めておきたいと思います。

 ウィーンフィル、ゲルギエフの演奏でまず感じたのは音の入りに対する集中力がハンパじゃないということ。曲の入り、音量もテンポも大きく変わるダイナミクスの境目、要所要所は客席で観ているこちらまで一緒に息を呑んでしまうような、強烈な視線とブレスでオーケストラが合わさっていくのです。私は第一バイオリンとソリストの真後ろ、彼らの指も見えるようなところに座っていました。ピアノ協奏曲の最終楽章、さぁこれから盛り上がろうというところで、第一バイオリンがいきなり大音量で入る際、ゲルギエフがカッと目を見開いてこっちを見て、一瞬で鳴っている楽器の音も吹き飛ばすかのような強烈で瞬発力のあるブレスで第一バイオリンを音に一気に引き込んだ、その場面が瞼に焼き付いて離れません。その瞬間、「ああ、カリスマ指揮者とはこういうものなんだ」と肌で感じたのです。引っ張られる。音も無音も、すべてが引っ張られていく感じがするのです。音も意思も、引っぱり一つにまとめる力。客席でもそれを感じるのです。ステージで演奏しているオーケストラは、それをどれほど感じるのでしょう。叶わぬ夢ではありましょうが、いつかそういったステージに立ってみたいものです。

 もう一つ感じたのは、これは指揮者に大きく依存する問題なのかもしれませんが、意外とウィーンフィルってリズムを表に出した演奏をするという印象を受けました。CDで聴いてる際はいつもサラッと優雅にまとめていて、あまりガツンとぶつかってくるような強烈なリズムを打ち出した演奏はしてないように思っているのですが、今回はかなりリズムの輪郭をはっきり出した、その意味では私好みの演奏をしていました。リズムの角を取った丸みのある演奏ではなく、むき出しのままむしろ炉に入れて鍛冶で鍛えたような、まっすぐ無骨なリズム感。結構ウィーンフィルに対して私が抱いていた印象を変えてくれました。

 ともかくも総じて言えばさすが世界のウィーンフィル。聴いているこちらも集中力を切らす暇がまったくない、素晴らしい至福の時間でした。クライマックスで思わず背筋を伸ばし拳を握った、あの迫力と集中力は最高です。いつかまた聴きたいものです。そしてその時は、もう少しはましな言葉で語れるように。

3 件のコメント:

  1. いやーゲルギエフは妖精ですよー

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  2. ゲルギエフは妖精っていうにはいささか暑苦しいように思うな、俺は(笑)。

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  3. 引っ張られるってすごいですねー。ゲルギエフの演奏はテレビでしか見たことがない。その場にいたエネルギーを体感することは一生の宝とおもう。イヤーうらやましい。小澤征爾も生で一度見たいと思っているが、DVDで観たストラビンスキーの春の祭典は、すばらしくモルトファンタスティコです。小澤征爾はめちゃんこ勉強してる、あんな日本人がいると言うことは、武満をはじめとして、ちょっとあまえてられないぞという感じです。まさにナチュラルカリキュレイトですなー。

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