2010年2月15日月曜日

ライフスタイル

 新潟に帰ってきてから早二週間近くが経つ。近年にない大雪の冬となった今年の新潟は、やはり晴れる日は少なく、雪が降るのを目にする機会が多い。車を運転しながら水田や川辺が雪で一面白くなっているのを見ると、「ああ、新潟だな、帰ってきたんだな」と感じる。それは、東京や横浜ではまず見ることがないだろう景色だからだ。

 新潟は車社会だ。電車に乗って行けば基本的に行けない場所はなく、車は趣味か利便性の道具でしかなかった東京と違い、新潟では車がないとそもそもまともに生活ができない。通勤も今度は約一時間の車通勤になるし、仕事でもプライベートでも毎日ハンドルを握る。片道の通勤で、横浜にいた時の一週間分並の距離を楽に走る。電車は県外に出る時くらいしか乗らない。

 大雪の朝は、車も道も雪で埋まってしまっているため、通勤や仕事の前はまず雪かきをしないといけない。自分が新潟に帰った四日夜から五日にかけては26年振りと言われる大雪。五日の朝は真っ白になった駐車場で車を雪の中から掘り出して、駐車場を出られるまでの道を作る雪かきをする人が大勢いたし、除雪前で膝まで雪に埋まる歩道に苦戦しながらコンビニまで歩く道すがら、色々な会社のオフィスの前では従業員が玄関や駐車場の雪かきをしているのを見た。タイヤの直径より高く新雪が積もった駐車場には車は入れない。

 土地が変われば生活も変わる。これが新潟という土地で、ここではこのようなライフスタイルがある。さて、戻ってきた。

2010年2月4日木曜日

日吉最後の夜






GLENMORANGE SIGNET

 いよいよ今日が日吉での最後の夜になる。今日は引越の業者が来て一日梱包作業。明日に搬出を行い、同日に今住んでいる部屋の退去手続きを行い、新幹線で新潟に帰る。結婚してから4年住んだこの部屋ともお別れだ。賃貸住宅というのは一度引き払ってしまうと二度と部屋には入れないのが少し寂しい。新潟を出てからこれまでに住んだ部屋の中でも、今回のこの部屋はピカイチお気に入りだったのだが。目の前には小洒落た欧風の住宅街で治安もよく非常に静かだし、小さいが気の利いた公園が近くに4つもつながっている。この辺では一番高い丘の上に立っているので、ベランダからの景色は圧迫感がなく、眼下に広がる景色では遠くにランドマークタワーを始めとするみなとみならいのビル群が見えるし、春には桜がきれいに咲く。17畳の広いリビングにモザイク細工の床がきれいな書斎、何故か竹があるフローリングの寝室、そして無料の駐車場。駅からは歩くと遠いけど、車があれば川崎にも港北ニュータウンにも近いロケーション。実に気に入っていた。南向きのベランダからは、天気のいい日にはいつもきれいな夕焼けも見れた。




 とはいえ、引っ越すと決めた以上はいつかは最後の夜が来る。それがとうとう来たということだ。引越業者の梱包作業も終わり、夕飯を食べに日吉の街に下りた。選んだのは迷わずらすたのラーメン。やはり、日吉と言えばこのラーメンだ。ねぎめしと一緒においしくいただいた。そして最後に軽く2杯程度おいしいお酒が飲みたいなということで、久し振りに画亭瑠屋に行ってみた。ここで飲むものはとりあえず決まっている。グレンモーレンジだ。

 一杯目に先のテイスティング・セミナーの際に気に入ったキンタ・ルバンを頼む。グラスが出てきた瞬間にテーブルにふわっと広がる、華やかで花のような爽やかに甘い香りが嬉しい。ゆっくりと飲んで、「今日は次で最後だな」と思いボトルを物色していると、グレンモーレンジの列に知らないボトルがあることに気がついた。この日記の写真のボトルだ。何やら、明らかにただ者ではないオーラを漂わせている。マスターに聞いてみると、これはシグネットといい、グレンモーレンジが満を持してリリースしたハイエンドのモルトで、通常とは製法から異なり、最長30年の原酒が使われているという。そう聞くと、とても飲みたくなる。きっと値段も相当するんだろうなとちょっとためらったが、9年日吉で頑張った自分へのご褒美にこの一杯くらいの贅沢はいいだろうと自分を納得させ、思い切って頼んでみた。

 グラスに口を近づけた際に一瞬感じた、爽やかな青リンゴのような香りが凄く印象的だった。そしてその青リンゴのような香りから、どんどん別の複雑な香りに変化していき、それだけで口に含む前から期待が募る。そして喉を通る際の滑らかなテクスチャ、豊潤という言葉が似合う膨らみのあるボディ、後から鼻に抜けてくる香りの複雑さ。モルトやワインを語る言葉として"官能的な"という形容詞がよく使われるが、このモルトの魅力はまさにそう語るにふさわしい。モルトやワインを"官能的"と表現するのは実はあまり好きじゃないのだけれど。

 このSIGNET、ビル・ラムズデン博士の理想の一つしてリリースされたものの、製法は公開されておらず、謎や神秘性を強調した売り方をしているらしい。その中で、公に公開されている製法の秘密は以下の5つとなっているそうだ。

・グレンモーレンジの最も古く、最も希少なウイスキーをブレンド
・深焙りした「チョコレートモルト」を含む、希少な原料を使用
・グレンモーレンジが所有する単一畑のモルトを使用
・グレンモーレンジが特注したデザイナー・カスクで熟成した原酒を含む
・ノンチルフィルターで、アルコール度数46度

 それともう一つ、このモルトは同一の製法だが熟成年数の異なるモルトをヴァッテッドして作られているらしい。ということは、30年の原酒も使われているが10年か、あるいはもっと若い原酒も含まれているということ。それがこのシグネットの画期的なところだそうだが(といっても元々ブレンデット・ウィスキーはそういった作り方をする)、それがこのモルトの熟成されたテクスチャやボディに若々しく華やかな香りが同居する見事なバランスを生んでいるのではないかと感じた。実に魅力的なモルトだ。

 日吉の最後の夜にこの一杯に出会えたのはとても嬉しかった。これだからバーに行くというのは面白いのだ。この一杯をこの9年間のご褒美として、明日からはまた生まれ故郷新潟にて、心機一転頑張っていこうと思う。

 さよなら日吉。さよなら渋谷。またいつか。