2012年11月26日月曜日

たむらぱん 全国ツアー@新潟LOTS 2012

かねてより楽しみにしていた新潟LOTSでのたむらぱんのライヴ、行ってまいりました。今回は先行予約でチケットを取ったら、発券してビックリまさかの整理番号1番!これは最前列でたむらぺんを振り回す等の派手なパフォーマンスをしなければならないのかと若干変なプレッシャーを感じつつ、当日を楽しみに待っておりました。開場時は整理番号を呼ばれて、当然ながら1番で会場入り。中に入った途端、本来オールスタンディングの箱である新潟LOTSにイスが並べてあるのにびっくりしましたが、整理番号1番のメリットを最大限に活かして無事最前列センターモニター横の席を確保いたしました。でもイスがあるのもいいですね。今回は一人で行ったのですが、一人でも一度席を確保してしまえばそこに張り付いている必要がない。おかげでグッズも買いに行けました。SEはBeatles。『A Day in the Life』などを聴きながらテンションを上げてスタートを待ちます。

 とりあえず当日のセットリストは大体以下の通り。ちょっとテンション上げすぎて、途中記憶はやや曖昧です(苦笑)。『でんわ』と『知らない』が反対だったかもしれないなー…、とか。訂正ありましたらご指摘ください。

1. ヘニョリータ
2. スポンジ
3. ジェットコースター
4. ふれる
5. はだし
6. ラフ
7. ゼロ
8. 十人十色
9. ぼくの
10. でもない
11. new world
12. ハイガール
13. でんわ
14. 知らない
15. おしごと
16. 直球

~アンコール~

17. バンブー
18. 責めないデイ
19. S.O.S

 例によって当日の驚きを楽しみに、セットリストは事前に確認はしていなかったのですが、当日聴いていてもちょっと意外性があったのが今回のセットリスト。バンドメンバーとたむらぱんが入場してきて、一曲目は何だと待ち構えていると、なかなかまさかの『ヘニョリータ』。『new world』か、もしかしたら『ハイガール』辺りかなと思っていたのですが。この如何にもたむらぱんらしい、キュートでポップにくるくると跳ね回る『ヘニョリータ』から、快調にライヴは幕を開けます。そしてそこから2曲目はさらにまさかの『スポンジ』。このタイミングで『ナクナイ』からの選曲があるとは思ってませんでした。しかも『スポンジ』。前回の新潟公演では「新潟の皆さん、こんばんはー!」みたいな挨拶をしていたら入りを間違えて焦っていたたむらぱん。今回は大丈夫、バッチリ入れてました(笑)。ま、リベンジってわけでもないんでしょうけど。そして次は『ジェットコースター』と、以前のアルバムからの選曲を出だしから立て続けに行う、しかも後半に出てくるイメージのある『ジェットコースター』を序盤に持ってくる辺り、一体これからどんな選曲になるのかと、非常にドキドキするセトリでした。

 『ジェットコースター』の後、MCをはさんでようやくニューアルバム『wordwide』より『ふれる』。実はこの曲、好きなんです。あのアルバムの中でも比較的インパクトは小さい曲ですが、あのサビの透明感のある旋律と"♪哀しみは通り雨~"という歌詞がとてもマッチしていて、何というか清々しい哀愁を感じてしまうのです。ちょっとJUDY AND MARYの『クラシック』も彷彿とさせるような。このライヴでもよかったですね~。"♪夕日が世界に寄り添いながら美しく照れる~"でバックライトがたむらぱんを照らしたシーンで思わずグッときてしまいました。

 その後も『はだし』に続いてMCをはさみながら『ラフ』『ゼロ』『十人十色』と、新曲よりも定番曲が並びます。前回の新潟ではアンコールラストの曲だった『十人十色』、今回もサイケデリックに音が飽和するトリップ感満載の演奏。最後ピアノの鬼気迫る乱打は、サウンドはもちろん見た目にも凄まじい迫力がありました。『十人十色』、ライヴで聴くとCDよりもずっと映える曲です。こういう曲を聴くとバンドの実力がわかりますね。物凄くレベルが高い。バックバンドとして、背景として扱ってしまうのは失礼な実力派揃いです。特にドラムの能村亮平さんとピアノの横山裕章さん。実際かなり時間を取ってメンバー紹介することからしてみても、たむらぱんもバックというよりは全体で一つのバンド、グループのように感じてるのではないでしょうか。実力もグルーヴ・一体感もバッチリのたむらぱんバンドです。

 『十人十色』で新潟LOTSを飽和させた後は、「ここからはちょっとゆっくり聴いてもらいたい」とイスに座ることをうながすたむらぱん。ここで歌われたのが『ぼくの』です。彼女いわく、歌詞に出てくる人間の関係性、距離感が凄く近しいものが多かった『wordwide』というアルバム。自分はその傾向は『mitaina』の時から感じておりましたが、その人と人の距離の近さ、あるいは距離そのものを痛切に歌い上げた象徴的な曲、それが『ぼくの』だったと思います。CDで聴いても言葉と歌が胸に文字通り突き刺さるようなとても力のある曲でしたが、ライヴで座ってじっくりと聴くこの曲は、また歌が、言葉が、突き抜けるように響いてとても心が揺らされました。この曲は、凄い。心に突き刺さる微かな痛みとともに、聴いていて歌の世界に引き込まれる。生で聴くことでこの曲の、彼女の歌の、凄さが改めて実感されました。

 引き続き座ったままの状態で次に演奏されたのが、CDではShing02とコラボしていた『でもない』。CDではラップが入って、全体的にマイナー調の冷たい響きとエコー多めのアメリカンなサウンドメイクがされていたこの曲ですが、今回はライヴバージョンということでラップなし、アレンジも全部変えて演奏されました。またこれが、よかったのです。ピアノとエレアコの弾き語りから入り、CDとは違ってメジャーコード主体の暖かい響きで歌われる『でもない』。全体として冷たい印象のCDでのアレンジとは全く異なり、ほんのり明るく暖かく、しみじみと歌われるこの曲は実に素晴らしかったです。そして聴いているといつの間にかメジャーコード主体の進行が並行短調に移動している、いつものたむらぱん節。アルバムでの音作りは全面的にShing02に委任されていたとのことですので、こちらの方が元々たむらぱんの頭の中で鳴っていた音なのかなとも思ったり。暖かな夕暮れを思わせるようなしみじみとしたアレンジに変えられた、実に素晴らしい音楽。このバージョンの『でもない』も何かの機会にCDに入れてほしいところです。

 そして次からは再び立ち上がって、エンディングに向けて一直線。『new world』、『ハイガール』といったイケイケの曲達が盛り上げてくれます。『知らない』はCDを聴いた際、「サビのバックのギターは全部タッピングで弾いてるのかな?」と思っていたのですが、ライヴで見てみたら間違いない。全部タッピングで弾いておられました。合ってた合ってた(笑)。ラストはアルバム『wordwide』でも強烈な変態曲2曲で飾られます。『お仕事』では気持ちテンポ早め、メンバー全員参加のコーラスと音の洪水で、最後の方は新潟LOTSの箱が音で飽和状態。グワングワン鳴るたくさんの音で、たむらぱんの歌も聞こえにくいくらいの大迫力サウンドでした。新潟LOTSはそれほど大きい箱ではないですが、それでも普通にバンドが演奏してるくらいじゃあそこまで音が飽和したりしないんですけど。やっぱ音数が尋常じゃなく多かったんでしょう。いやー、でもあの曲の最後のサビ前、ツーバスで盛り上がるところでヘッドバンキングしてたのは私くらいでしょうか。思わずロック魂が…(苦笑)。『お仕事』はあそこまで大仰で複雑な曲なのに、凄くライヴ映えするのにビックリしました。ラストは『直球』で元気に飛び跳ねて、ライヴ本編は終了!いやー、でも『直球』のAメロ、ノリにくい、踊りにくい!先の記事でも書きましたが、7拍子ですからね、あれ。普通にやってても踊れない。結構皆さん「あれあれ?」って感じで翻弄されてました(笑)。イチニ、イチニ、イチニサン、って数えながらノルのがコツです。

 アンコールではこれもまさかの『責めないデイ』をやってくれたのが嬉しかった。『ラフ』を聴いてたむらぱんを認知した自分が、『ブタベスト』を借りてきてこの曲を聴いてトドメをさされたのです。いつか生で聴きたいとは思っていましたが、まさか今回聴けるとは思っていませんでした。たむらぱんのアンコールには、何かしらのメッセージがある気がします。今回なら大雑把に言えば「明日からまた仕事だけれども、自分を信じて頑張れ、時にはS.O.S.を出してもいいから」と。そう言ってくれているのではないかなと、…思うのは自分だけでしょうか? そのアンコールラストは『S.O.S』の大合唱で締め、今回の公演は幕引きとなります。実に熱く、心地よくテンションが上がった空間でした。

 その他、今回新潟LOTSのステージではたむらぱんが立つステージ中央に5m四方くらい(?)、高さ10cmほどの高台が作られていました。たむらぱんちっちゃいからよく見えるようにとのことなのでしょうが、「人間不思議なもので、囲われるとそこから出たくなくなるというか…」とMCでも本人が言っていたように、本当にあまりその枠の外に出てきませんでした(笑)。小さい枠の中で踊ったり跳ねたり。前回よりも全体的にアクションが大きくなったし、幅が出てきた気もします。彼女が歌ってる表情、仕草は本当に楽しそうでいいですよね。それだけでこちらも楽しくなってきます。

 もう一つ印象に残ったMCはShing02の言葉について。指二本で出すピースサイン。皆ピースを目指してゼロから一気にやろうとするけど、まずは1を出さなきゃいけない。この1が重要なんだと。「いい言葉でしょう?これ、私が言ったんです!…そう言いたいんだけど、Shing02さんが言ったんです」と笑うたむらぱん。いい言葉が出てきて、嬉しいんだけどそれを言ったのが自分じゃないのが悔しいなぁ的な(笑)。その言葉にこだわる姿勢が、その他のMCでも随所に出てました。今回MCで敢えて歌詞や言葉に言及することが多かったのは、『wordwide』という言葉をフューチャーしたアルバム名だったからなのか、彼女の中で言葉が占める重要性が以前よりさらに大きくなってきたからなのか。ただ、アルバム『wordwide』では彼女の言葉がこれまでよりもずっと、自分の心に響いてくるようになったのは確かです。それはこのライヴの歌や、MCでも然り。『ナクナイ』の頃と比べると、凄く言葉がよくなったなぁと感じました。

 というわけで、客席後方で観ていた前回とは違い、最前列でガッツリ楽しんできた今回のコンサート。やはり素晴らしく、とても楽しめるステージでした。まぁ何と言うか、客席のノリ方にイマイチ迷いがあるのはたむらぱんならではしょうか。幅広すぎる年齢層も一因でしょうし、例えばブルーハーツみたいにとりあえずピョンピョン跳ねておけばノレるというシンプルな音楽でもない(ブルーハーツは大好きですよ、念のため)。そこがまた観客の一部のノリにためらい傷のような跡を残すのですね(笑)。でもまぁたむらぱんの場合そんなところこそが魅力なのですが。

 ライヴ後、放心状態で新潟LOTSを出て、寒風に吹かれながら家に着くまでの間、体に残る熱気の余韻を楽しみながら夜の新潟の街を歩いて行きました。今回も最高のパフォーマンスで魅せてくれたたむらぱん。また新潟でライヴやってほしいですね。

2012年11月9日金曜日

茂木健一郎氏 寺子屋授業@大島中学校

 本日、ご近所の大島中学校で茂木健一郎氏を招いて中学生と小学5・6年生相手に寺子屋授業が行われていたので、地元の一般参観として聴講させてもらいました。お客様が「こんなイベントあるよ」と教えてくれたので、市民の一般参観もあるとのことだし潜り込めるだろうと行ってきました。大島中学校の卒業生では、もちろんないんですが(笑)。

 形式は最初と最後の10分くらいずつを茂木氏が一人で話し、残りは校長先生と生徒を交えての質問コーナー。茂木氏に次々と壇上に引っ張り出され、地元のテレビカメラの前でムチャぶりに対応を迫られる小中学生達はとてもいい経験になったことでしょう。茂木氏に言わせると、こうしたプレッシャーのかかる状況で精一杯対応するということも、挑戦して克服したという脳のドーパミンが出る要素なんだとか。

 今回は小中学生相手のお話でしたので難しい話題は出てきませんでしたが、一つ参考になったのは集中力について。集中力というのは瞬発力が大事で、ダラダラしているところから一瞬でトップギアまで入れることが集中力を発揮するためにはいいということ。宿屋で新撰組に突然襲われた坂本竜馬の気持ちで目の前のことに一瞬で集中力をトップギアに入れて取りかかれと。またそうすることで、集中するための力も鍛えられていくそうです。集中すると決めたら一気にトップギア。これは自分も覚えておきたいなと思いました。

 とはいえここだけの話、茂木健一郎氏は「アハ体験」とか、「~は脳にいい」「~で脳が活性化する」とか言い始める前の方が好きだったりはするのですが。クオリアについて語る認知科学者であった頃は、あの小難しい認知科学の世界をよくこんなに平易に、面白く本にできるものだと感心していたものです。そして小説『プロセス・アイ』がなにげに面白い。

 今回は進行も細かく決めていたわけではなさそうで、大分アドリブが垣間見えるフリーダムな講演会。茂木氏は小中学生相手に終始ジョークを交え、生徒たちを会話の中に入れながら進めていき、どちらかというと聴いていてためになるというよりは、普通に楽しい講演会でした。大島中学校の今の校長先生が凄く茂木氏を尊敬しているみたいですね。それで自分の世界の見方を変えてくれた茂木氏を、子供たちのために招聘しようと頑張ったみたいです。その行動力には感服します。校長先生も外国人講師の方も茂木氏も仰っていた、この2本の川と果樹に囲まれた大島という地域に誇りを持っていってほしい言葉。やはり自分の育った環境をしっかり見つめ、誇りを持つというのは、ひいては自分の足元も固め、周囲を愛し、地元を、国を愛するためにまず大事なんだなと感じました。

 突然飛び込んだ講演会、茂木健一郎氏の話を生で聴けたというのもそうですし、色々と楽しい時間でした。今日この寺小屋授業に参加した小中学生たちはいいですね。校長先生が一生懸命にこういう場を用意してくれるというのは、実はとても幸せでありがたいこと。大島中学校、頑張ってください。

2012年11月8日木曜日

たむらぱん『wordwide』

 前作『mitaina』から9ヶ月という驚異的な短ペースでの新作となったこの『wordwide』。前作が個別の曲のクオリティとは裏腹に、何故かアルバム全体として見た場合に少し違和感を感じる内容だっただけに今回はどうか、個人的にはたむらぱんの今後の方向性を占う意味でも非常に重要なリリースになると感じていた本作。聴いてみていやいやビックリ。たむらぱんの"おもちゃ箱をひっくり返したような"キャパシティの広い音楽性と緻密なアレンジ、そしてそれを感じさせない楽しさや、あるいはこれまで感じることがなかった種類の気迫までも感じる、素晴らしい大傑作アルバムとなっていました。

 まず度肝を抜かれたのが2曲目の『おしごと』。たむらぱんのCDに初めて男声コーラスが入ってきた、クイーンばりに分厚いコーラス重ね録り。ボヘミアン・ラプソディよろしく次々に曲が展開していく壮大なアレンジのこの曲。それでいてその極度に早い展開に翻弄された後にも、オクターヴを切り替えながら歌われるサビのメロディーと歌詞がひたすら頭の中に残る、まるで呪いの歌のような音楽(笑)。一聴、思わず「なんじゃこりゃ!?」と思いました。とうとうたむらぱんもここまで来たかと。ここまで節操のない(?)展開をしておいて、それでまったく違和感がないのが凄まじい。無理矢理音楽を広げたのでなく、あくまで自然と変態を突き進むその感じ。2曲目にしていきなりのハードパンチです。

 そして次の『でんわ』。本来は2011年3月か4月にシングルでリリースされるはずだったこの曲ですが、3.11の震災後にリリースが延期(中止?)されていました。その理由を、たむらぱんはナタリーへのインタビューでこう語っています。

実はこの曲、シングル候補だったんですよ。でも、その時期に震災が起きて。「突然いなくなる」っていう感覚が全く違う方向に向いちゃう気がしてリリースしなかったんです。「電話が来た時は」「あぁ手遅れだ」って書いちゃってる自分が気持ち悪い、とも思ったし。でもそういうことって多分どこにでも起こり得ることなんですよね。そういうことを感じたりもしました。

 世界の空気に敏感だった彼女がリリースを取りやめたこの曲が、ようやくこのタイミングで聴けるようになったわけです。日常の中でのささやかなコミュニケーションとその行き違いが歌われたこの曲、最後には村上春樹の『ノルウェイの森』のエンディングを思い出しました。あれだけ待っていた電話が来たときには、もう電話の相手といるべき場所には自分はいなかったという、後悔の混じった哀しさ。それをあれだけ爽やかで耳に残るメロディーとともに歌いあげる、これもまた一回聴いたら頭の中でグルグル回る曲です。しかもこの曲、最初は基本4拍子でサビだけ3拍子なのかなと思っていたら、冷静に聴いてみるとサビもちゃんと4拍子で、Voのメロディーだけが3拍子っぽいフレージングだからポリリズムのように聞こえてるだけという、リズム遊びのたむらぱんマジック。さすがです。これだけ聴きやすいポップな曲の中に、さりげなくそんな要素を織り込んでくる。まさにプログレッシヴ・ポップ。この曲のサビ、ド○モとかa○とかにCMで使ってもらえれば一気にブレイクすると思うんだけどなー…。

 そして次の『ぼくの』がまた凄い曲なのです。これまでは比較的冷静にというか、面白いメロディーを多彩な声色で表現するというイメージがあったたむらぱんが、初めて声が掠れるほど声域いっぱいの高音を続けて、震えるような叫びを聴かせてくれています。これにはドキッとしました。そういうソウルフルなイメージがあまりなかった彼女が、一杯に声を張り上げて痛切に叫ぶのです。「ぼくをなきものにしないでよ」と。音楽は彼女にしては割と素直な名曲なのですが、その振り絞る叫びの説得力が物凄い。これは震える曲でした。曲やシーンに応じて使い分ける声のパレットと表現はたくさん持っているけれど、ストレートに訴える力は確かに少し弱いかなと思っていたたむらぱん。でもそのカラフルな歌声を聴いているとそれが不足だとは感じていなかったのですが、そこにさらにソウルフルな叫びまで加えてきました。これはかなりの新機軸です。そしてこれもまたどこまでもサビが耳に残る。印象的なメロディーを作らせたらまさに天才的な彼女ですが、ここまではその才能が凄まじいまでに炸裂してます。

 その他も歌詞が個人的に好きな『ST』、『new world』とともにシングルカットされ、伝統的たむらぱんスタイル(?)で楽しませてくれた『ヘニョリータ』等、相変わらずカラフルで様々な色合い、表情を見せてくれる楽曲達。その中でももう一つ極めて強烈なのが『直球』でした。この曲、サビだけ聴いてるとタイトルの通りストレートな8ビートギターポップかと思いきや、全体としてはとんでもない変態曲。このアルバムでは『お仕事』と双璧です。サビ以外のリズムの変化が非常に大胆かつアブノーマル。Aメロは4+3の7拍子で進んでいき、一回目のBメロは4拍子に戻ってサビの8ビートへ。そこから間奏は3+4の7拍子になってAメロはまた4+3の7拍子へ。この同じ7拍子でも内訳をAメロと間奏で変えてくる辺りが実に芸が細かい。さらに「♪ふわっふわっ」と歌ってるところなんてイマイチ何拍子かつかめないし、2回目のBメロは6/8拍子に展開して8ビートのサビに戻る。どんだけリズムで遊んでんだと(笑)。「変化球なんて使わないで直球勝負」とか歌ってる割に、音楽は全盛期の松坂のスライダー並みの勢いで鋭く変化していきます。こんな曲をサラッと聴きやすいポップなセンスでまとめてくるのが驚愕です。

 思えば前作『mitaina』は、自分としては少し違和感の残るアルバムでした。うまく言えないのですが、印象としては「メジャーを目指そうとしすぎている」感じでしょうか。楽しい音一杯、耳に残るメロディー一杯ではあるのですが、展開やアレンジが僅かに単調に感じたのです。豪華なゲスト陣を迎えてこれまで以上に華やかな音作りがされた前作の中で、その単調さ、そこがパッと聴いた際の「わかりやすさ」を目指しすぎた印象で、持ち味の意外性が僅かではあるものの損なわれていた気がしたのです。もちろん多様性はあるんです。最初の5曲『ハイガール』『ファイト』『フォーカス』『しんぱい』『白い息』はそれぞれまったく別の方向に、たむらぱんという中心から円を描くように別の方向へとそれぞれ放たれた名曲達ですが、反面曲ごとの多様性の割に曲の中での意外性は希薄だった。それが前作『mitaina』の感想でした。『やっぱり今日も空はあって』とか、ホントに素晴らしい名曲なんですけどね。

 そこへきてこの最新作『wordwide』です。実は『new world』をシングルで聴いた時には少し心配していたんです。やっぱり華やかにわかりやすさを目指した方向性で行くんだろうかと。でもこのアルバムは完全に吹っ切れたようで、たむらぱん本来の同じメロディーは同じ形では二度出てこないくらいのアレンジ・展開の多様性が見事に戻ってきました。そしてこれまで以上に耳に残る天才的なメロディメーカーぶり。よくもここまで作り込んだもんだと驚嘆するくらい、今回はすべての曲においてアレンジが緻密で単調さがまったくありません。だから全然聴き飽きもしない。

 そして『wordwide』というタイトルが示す通り、このアルバムでは言葉がとても力強く、説得力があります。これまでたむらぱんの歌詞は一部は好きなのですが全体的にはまあまあ、くらいの印象でどちらかというと器楽的に聴いていたのですが、今回は言葉の力を凄く感じます。『ぼくの』のように言葉とメロディー、歌が相まって痛切に訴えたり、『でんわ』のように文学的なストーリー性と切なさを感じたり、『ST』のように思わず自身を重ねてみたり、『知らない』のように生き方を考えさせられてみたり、これまで以上に音楽と言葉がきれいに混ざり合ってきたなと感じます。言葉にメロディーを乗せるのでもなく、その逆でもなく、言葉とメロディーがお互いに同時になくてはならないような親密感。それが言葉の説得力をさらに増していくのです。そこは凄く、いい意味で変わったなぁと。

 長々と書きましたがこのたむらぱんの最新作『wordwide』。最高傑作と呼ぶにふさわしい、音楽も言葉もこれまで以上に進化したなと心から驚嘆する一枚でした。これほどの才能は世界を見回してもなかなかいない。月末の新潟でのコンサートに行くのがもう既に待ちきれないほど楽しみです。