2011年11月29日火曜日

今だから考えさせられる『COPPELION』

 ヤングマガジンで連載中のマンガ『COPPELION』をレンタルしてきて11巻まで一気に読了した。お台場原発がメルトダウンを起こし廃墟となった東京で、遺伝子操作を受けて放射能への抗体を持った少女が生存者の救出に向かうアドベンチャー。当然震災前から連載が始まった漫画だ。さすがに震災後であればこんな内容のマンガは新規連載開始とはならなかっただろう。

 『COPPELION』は爽快で涙もあり、とても面白いけど正直深い話ではない。けれど、震災後の今読むと色々と考えさせられる。セシウムやストロンチウム、中性子等の性質もちゃんと出てきて、ある程度科学的に正しいから尚更だ。もちろん科学的にまったくあり得ないことも出てくるが、まぁそこはマンガの世界。つっこむのは無粋というものだろう。

 挿話的に描かれるのは、震災発生時、放射能漏れを隠して自衛隊に救助をさせ、自分達は逃げ出した政府。事故の実態を隠そうとする電力会社。責任を感じて一人で東京に生存者の理想郷を創り上げる原発設計者や、軽視される安全管理の中で危険を承知の上で現場に残った技術者など。そして一番痛ましいのは、自分の意思で残ったのではなく、逃げ遅れる形で汚染された東京に残されてしまった多数の一般市民。今となってはどれも現実的だ。読んでいるとこの悲劇は福島でも現実にあり得たのだと思ってしまう。

  『COPPELION』を読んでいると、今までなら「まぁマンガの世界だしな」で片づけられる部分がそれで片づけられない。今となっては、恐ろしい程のリアリティがあるからだ。「そんなマンガみたいな」とはよく言うけれど、そう、マンガみたいな世界に、なってしまったのだなと。

  このマンガは震災後は不謹慎との批判もあるらしいし、福島の人から見たら実際精神的にも苦しいのだろうと思う。その人達に対して自分は何も言うことはできないのだけれど、個人的な希望を言えば不謹慎とは言わずに続けさせてほしい。今だからこそ、想像力に働きかける物語でもあるのだから。

2011年11月7日月曜日

上野にて文化の日

 さて、3日から妻子と共に妻の実家である佐賀に盆・正月代わりの帰省という形でお邪魔していたわけですが、今回も妻子は二週間ばかり佐賀に滞在するため、本日一旦自分は一人で新潟に帰ってまいりました。その際、佐賀空港から羽田に飛んで、東京を経由する形で帰ってきたので、まぁ折角東京に来たんだしということで、ちょっと一人で東京で遊んで帰ってきました。

 東京駅から近くて、ノープランでも遊びやすいところとなると個人的には上野になります。美術館も東京文化会館もあって、一年中いつ行っても大抵何かやってるので、東京駅を起点にするなら便利な所。今回もとりあえず行ってみたら西洋美術館でゴヤ展をやっています。ゴヤはクラシックギターで最も重要なレパートリーの一つであるグラナドスに多大なインスピレーションを与えた存在。有名な『着衣のマハ』も見られるということで、これはギター弾きとしては逃すわけにはいきません。まずは行ってきました。

 ゴヤの作品をまとめて鑑賞するのは初めてでしたが、有名な『着衣のマハ』に代表されるように、女性の官能的な魅力やその裏に隠れた闇を描き出した画家ですが、実はそれ以上に世の中の闇に非常に敏感に向き合った人でもありました。それは女性を中心に描いていた頃は女性の魅力と裏腹の恐ろしさ、醜さという形で、後年にはより不気味な幻想世界の描写という形で、現れるようになっていきます。だから彼の作風はエロスに留まらず、次第に時代への風刺とともに強烈なタナトスを織り込むようになっていきます。

 それらの作品群を見ていて感じたのですが、痛烈な教会批判もしたゴヤが、一番疑ってかかって挑んでいたのはやはり神であり、ひいては正義や真理といった概念だったんじゃないでしょうか。そういったものが本当に存在するのなら、何故この世界にはこんなに痛みが、苦しみが、死が蔓延しているのか。彼の作品はそう叫んでいるように思えます。特に晩年近くなってからの不気味に幻想的な作品群からは、そのようなメッセージを強く感じるのです。

 そしてゴヤ展を鑑賞した後は、お腹が減ったので一蘭でラーメン。一蘭のラーメンは久しぶりですが、やっぱり美味しい。有名店の名に恥じないクオリティで楽しませてくれるお気に入りのラーメン屋です。

 ラーメンを食べて満足した後は、東京文化会館へ。この日は東京文化会館の50周年記念ということで、『東京文化会館は音盛り。 ~うえの音楽人フェスティバル~』ということで一日中コンサートが催されていたのです。私は16時からのプログラムに行ってきました。演目はヴェルディの歌劇『運命の力』序曲、モーツァルトのフルート協奏曲第1番K.313より第一楽章、そしてラフマニノフのピアノ協奏曲第2番、上野学園大学管弦楽団の演奏です。この演目でチケ代は2,000円ですから安いもの。上野学園大学管弦楽団は学生と教員が混ざったオーケストラですが、さすが音大のオケだけあってなかなかいい音鳴らしてます。印象的だったのがラフマニノフ。ソリストは何と高校三年生(!)の古賀大路さん。10月にコンクールで3位入賞(?)されたとのことですが、この高校生がなかなか凄い。とても高校生とは思えない深いフレージングで、さすがにまだ少々力尽くではあるものの、それでもラフマニノフに負けずにしっかりと音楽を刻んでいきます。恐らくこのステージにかけての意気込みは強いものがあったのでしょう、最後まで集中力を切らさず一心に弾く姿と音楽は素晴らしいものがありました。演奏後、何度も何度も客席、指揮者、オケにぎこちない礼を繰り返す辺り、まだステージ慣れしていないし、凄く生真面目な人なんだなぁと感じさせて、ちょっと微笑ましくもあったり。まだ高校生とのこと、将来どうなるかわかりませんが、順調に成長していけばいい音楽家になるんじゃないかと思いました。

 そしてコンサートが終わったら足早に上野駅に戻ってそこから新幹線に乗って新潟に帰るわけですが、半日で上野をたっぷりと堪能いたしました。こうしてぶらりといってもたっぷり文化に浸れるところが上野のいいところですね。2011年11月6日、一人で勝手に上野で文化の日をやっていました(笑)。