2003年7月25日金曜日

トールモー・ハウゲン『夜の鳥』

 『勝手に読書週間』第三日目、今日はトールモー・ハウゲンというノルウェーの作家の作品『夜の鳥』をご紹介しましょう。この作品は元々は童話というか、俗に児童文学と呼ばれる範疇のものです。が、ミヒャエル・エンデの『モモ』がそうであるように、決して子供でないと楽しめないというような本ではありません。むしろ、大人が読んだ方が面白いんじゃないか、っていうくらい。

 この『夜の鳥』というのは児童文学としては結構グロいというか妙にリアリスティックというか、そんな変な作品なのです。魔法とかそういうのは一切出てこない。神経症になって働けなくなって、医者のところにも「行く」と言って行かない父親、夫のために本意でない職場で働いてるのだけど一日も早く自分の夢に向かって転職をしたい母親。そんなアンバランスな家庭と日常が舞台なのです。そんな離婚すら見えかくれする家庭で、少年ヨアキムが抱く不安感とそれが元となる恐怖の想像。それが『夜の鳥』なのです。

 この作家、文章が凄く綺麗なんですよ。綺麗と言うのは、表現がきらびやかだとか詩的だとか、そういうのではなく、無駄に装飾をしたり引き延ばしたりせず、必要最小限の適確な言葉で物凄くいきいきと情景も心情も描き切ってしまうのです。特別な言葉もトリルみたいな修飾もなしで。『夜の鳥』は全体的にモノトーン的な小説なのですが、トールモー・ハウゲンのその文章が小説世界に素晴らしいしなやかさと生命力を与えています。そこは訳の山口卓文氏の力も大きいのでしょうが。北欧文学というのはなかなか邦訳が出て紹介されるのも少ない分野ではありますが、この作品はお薦めです。ちなみに、私もまだ読んではいませんが(買ってはある)、続編の『ヨアキム』という作品もあります。

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