「いや、もう汚れと思えるものは何もないじゃないですか。どこがそんなに汚れているんです?」
「何もないように見えるか?ほら、こことこことここにこんなに汚れが残っている。こいつらがしつこい」
「でもそんなの誰も気にしませんよ。それに仮にそこを綺麗にしたとして、またすぐに誰かに踏まれて汚れますよ」
「そんなことを言っていたら掃除すること自体意味がなくなる。そして気付いた時には手のつけられないくらい汚れてしまっているんだ」
「まぁそうかもしれませんがね。でもそんなあなたにしかわからないような汚れなんて・・・」
「だから見えないのか、この汚れが?」
永劫の螺旋を思わせる問答。結論は出ないだろう。老人はいつまで同じ床を磨き続けるのだろうか。彼にしか見えない汚れを。そして彼の行為が正しいか、あるいは妥当性のあるものなのかどうかはわからない。私にも、誰にも。このようなことは割に世の中よくあることで、いちいち結論を出すまでのものではないかもしれないが。あるいは結論は出されるかもしれない。ただしその場合は時代という名の権力者が、別の名を語って判決を下すであろう。潔癖症の掃除夫という、実にシュールな命題に。
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