2000年6月13日火曜日

音楽認知科学ア・ラ・カルト

 今週の水曜日にゼミ発表をやらなければいけないので、今日は久しぶりにちょっと私が卒論で扱おうと思っている音楽認知科学の文献を読んでました。といっても本当にちょっとですけど(って、大丈夫か、オイ!?)。音楽認知という分野は哲学的だったり実証的だったり、形式主義的であったり表現主義的であったり、言語学的であったり数学的であったりとなかなか色々大変な分野なのですが、やっていると結構面白い分野です。今日はよく扱われ議論される主な音楽認知の題目の中からいくつかをピックアップして紹介してみましょう。

 まず哲学的視点からあるのは、音楽の絶対的な意味内在性を主張する絶対主義、それに対して音楽の内在的な形式の他に聴き手の概念、行為、情動、性格等を参照する形で何らかの音楽世界以外の要素を取り込んだ形で音楽の意味は形成されるという参照主義があります。前者は音楽にはその形式なり音列、和声の群自体が例えば明るく楽しいとか静かで寂しいとかの意味を絶対的に持ち、それ故音楽の持つ意味が聴き手の印象を完全に左右するのであり聴き手の心象が音楽にフィ-ドバックされる形で投影されるものではないという立場。後者は音楽の構造的な意味以外にも聴き手の心象等の音楽の外の世界の影響が音楽に反映されて音楽の意味が決まるという立場です。また、「形式主義」と「表現主義」という視点もまた別の見方としてあり、前者は聴き手は音楽の形式やパターンといった音符的、符合的な面を聴き手として評価する立場であり、後者は音楽を情動を表現する手段として聴く立場です。まぁこれはレポートとかではないのでこれ以上は突っ込みませんが、音楽認知や音楽心理といった分野ではこのようなことも熱く議論されているわけです。ちなみに私の意見は参照的表現主義の立場に近いのですが皆さんはどうでしょう?ちょっと考えてみると面白いかもわかりませんよ。

 他によく扱われるのは発達心理学的な視点。音楽を認知したり演奏するのが発達、上達していく過程はどうなっているのかを研究する分野です。ま、おきまりというかでよくあるのは音楽の才能は生まれつきのものか、生後発達していくのかというもの。あるいは音程を覚えていったり、調整を判断できるようになる(長調と短調の違いとか)発達の過程とか。他にはちょっとメインストリームとは異なるのですがこの分野で私が強く興味を弾かれるものとして音楽性の発達についての研究なんかもあったりします。これは音大生が主な研究の対象で、音大生は特に音楽性というものが自分のアイデンティティに直結する問題だけによく見つめ、研究しているからある面では凄く参考になります。幼い頃、楽器はやっていなかったが音楽好きの親が常にかけていた音楽が音楽性のルーツになっていたり、親の仕事の都合で海外を転々として西洋音楽から民族音楽まであらゆる分野の音楽に直で触れたのがよい音楽性につながっていたり、あるいは学業、友人関係、恋愛、その他人生経験というものが音楽性のルーツであり、どういう生き方をしているか、何を願っているかがそれだという人がいたり、様々です。逆に音楽性が乏しいのを生育環境に由来する性格のためと分析する人がいたり、訓練によって音楽性が身に付けられないかと苦悩する人もいたり・・・。音大生にとっては死活問題だけに真剣です。私は、そりゃ音大生とはレベルの違うものだとはわかってはいますが、自分のスタイルというか音楽性についてははっきりしたものを持っているし武器にできていると思っています。が、そのルーツはというと、どうなんでしょう?幼い頃親が「3才を過ぎるまではバッハとモーツァルト以外の音楽は聴かせない」と息巻いていたせいでしょうか?(←マジでそうだったらしい)それとも・・・? ある一人の音大生の言葉を借りたいと思います。

 『あの人らしい演奏だったね』と、らしいと感じさせるものが音楽性なのだと思います。普段、その人がどういうことを考えているか、どういう生き方をしているか、また願っているか、そういうすべてのものが音楽を通して現れてくるのだと思います。演奏の中に自然にでてくるもの、その人自身、その人そのものが音楽性なのだと考えています。

 まぁ幼年期の環境も重要ではあるのでしょうが。

 で、他にある分野は本格的に「認知」って感じのものですね。旋律や調整、リズムやタイミングをどのように人は『音楽』として認知しているのかという分野です。実験、実証の難しい音楽認知の分野の中では比較的実験がやりやすい分野ですね。音楽は進行するうちに「次はこうなるだろう」という期待や、その期待が裏切られた時の緊張の繰り返しによって音楽となるというようなことを実証していく分野です。人は音の列から調整を無意識のうちに音楽的まとまりとして認識しているとか、音楽の熟練者とただの機械による譜面の演奏のタイミングや区切りなんかの微妙な違いから、いわゆる名演奏者はそうでない演奏者と何がどう違うのかを検証してみたり。これも面白いです。

 前にも書きましたが、音楽認知の理論を自分の演奏に取り入れてみたり、逆に時分の音楽との関わりの中の経験を音楽認知の勉強に役立てたりと、一石二鳥なやり方をしているのです。

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